本連載講座は、理想やビジョンを現実にするための「権力」の原理を体系的に解説するものである。社会心理学や組織行動学などの最新知見を基に、パワーの獲得戦略、具体的な運用術、長期的な維持の方法、そして権力がもたらす心理的リスクまでを網羅的に論じる。感情論や精神論ではなく、あくまで論理的で再現性のある戦略を提示し、実践的な知見の提供を目的としている。

優れたアイデアが無視される現実 優れたアイデア、揺るぎない信念、そして誰にも負けない情熱。これらは何かを成し遂げようとする者にとって不可欠な要素である。しかし、それらが揃っていたとしても、プロジェクトが頓挫し、提案が却下され、志が潰えることは決して珍しくない。それ一体なぜなのか。 多くのビジ...

良い仕事を実現するためのツール 仕事に真面目な人の多くは、「社内政治」や「根回し」といった活動を避け、ただひたすらに「良い仕事」をすることに集中したいと願う。質の高い成果物こそが、自らの価値を証明する最良の手段であると信じているからだ。その信念は崇高であり、プロフェッショナリズムの根幹をなすもので...

権力資産のポートフォリオ 権力とは、一部の人物が持つ、漠然としたカリスマ性や天賦の才ではない。それは、日々の行動と思考の積み重ねによって築き上げられる、極めて具体的な「資産」のポートフォリオである。そして資産である以上、それは戦略的に構築し、維持し、成長させることが可能である。 権力を行使す...

組織的エネルギーである支持基盤の構築 一個人の能力や努力には限界がある。どれほど優れた専門性や正当性を有していたとしても、単独で成し遂げられることの規模や範囲は、必然的に限られる。特に、現状を大きく変えるような、抵抗や摩擦を伴う変革を推進するためには、個人の力を超えた、組織的なエネルギーの結集が不...

価値は伝わって初めて意味を持つ 個人の内に秘められた能力、知識、そして情熱は、それ自体が直接的に権力を生み出すわけではない。それらの価値は、他者によって「認識」され、「評価」されるというプロセスを経て、初めて権力という現実的な力に転換される。組織における人間関係の力学において、多くの場合「客観的な...

権力は行使されて初めて価値を生む これまで論じてきたように、権力の獲得は、資産の構築、支持基盤の形成、そして戦略的な自己演出という、地道で計画的な活動の成果である。しかし、どれほど強固な権力の基盤を築き上げたとしても、それだけでは目的を達成することはできない。権力は、いわば蓄えられた位置エネルギー...

権力のパラドックス 権力の獲得に至る道程では、他者への共感、注意深い傾聴、謙虚な学習姿勢、そして多様な人々との協力関係の構築といった資質が、極めて重要な役割を果たす。しかし、一度権力を手中に収めると、皮肉なことに、まさにその成功の要因となったはずの資質が、最初に侵食され始める。これが「権力のパ...