第05回 MIDI打ち込みの基本 – MIDIアイテムとMIDI Editor入門

前回の第04回では、楽曲の土台となる「トラック」の作成と管理について学びました。各トラックがオーディオやMIDI、そしてエフェクト処理の単位となることを理解できたかと思います。

第5回となる今回は、いよいよ楽曲制作の重要な手法の一つである「打ち込み」を始めます。打ち込みには「MIDI」というデータ形式を使用します。MIDIとは何か、そしてREAPERでMIDIを扱うための「MIDIアイテム」と「MIDI Editor」の使い方を学びましょう。

MIDIとは?オーディオデータとの違い

音楽制作において、「オーディオデータ」と「MIDIデータ」は全く異なるものです。

  • オーディオデータ:音そのものの波形データです。録音した音や、書き出されたWAV、MP3ファイルなどがこれにあたります。音の高さ、音色、音量などが全て含まれていますが、後から個別に編集するのは難しいです。
  • MIDIデータ:演奏情報データです。「いつ、どのくらいの長さ、どの高さの音が、どれくらいの強さで演奏されたか」といった情報のみを含みます。音色そのものは含まれていません。MIDIデータだけでは音は鳴らず、別途ソフトウェア音源やハードウェア音源を使って音を出す必要があります。

MIDIデータの利点は、後から音の高さや長さを簡単に変更したり、演奏のタイミングや強弱を細かく調整したりできる点です。打ち込みによる楽曲制作では、このMIDIデータを主に扱います。

REAPERでMIDIデータを作成する「MIDIアイテム」

REAPERでは、このMIDIデータをプロジェクト内で「MIDIアイテム」という形で扱います。オーディオデータが「オーディオアイテム」として表示されるのと同様に、編集エリアのトラック上に四角いブロックとして表示されます。このMIDIアイテムの中に、実際の演奏情報が記録されます。

空のMIDIアイテムを手動で作成する手順は以下の通りです。

  1. MIDIを打ち込みたいトラックを選択します(まだトラックがない場合は、前回の方法を参考に新しいトラックを作成してください)。
  2. 編集エリアでクリック&ドラッグして、目的のMIDIアイテムの長さを定義します。
  3. メインメニューから Insert > New MIDI item を選択して、MIDIアイテムを挿入します。(デフォルトでは、MIDIアイテムはループが有効になっています。)
  4. 作成したMIDIアイテムをダブルクリックして、MIDIエディターで開きます。これにより、そのアイテムにノートやその他のMIDIイベントを入力したり編集したりできるようになります。

MIDI Editorの画面構成:ピアノロールビュー

MIDI Editorにはいくつかの表示モードがありますが、最も一般的で直感的に扱えるのが「ピアノロールビュー」です。画面の左側にピアノの鍵盤が縦に並び、横軸が時間(拍や小節)、縦軸が音の高さ(ノート)を表しています。

ピアノロール上で表示される四角いブロックが、それぞれの「ノート」(音符)を表しています。ノートの位置が音の高さ、ノートの横の長さが音の長さを表します。

ピアノロールビューで頻繁に行う基本的な編集操作を覚えましょう。

  • ノートの入力:ツールバーにある鉛筆ツールを選択し、ピアノロール上の入力したい音の高さと時間の位置をクリックまたはドラッグします。クリックすると短いノートが入力され、ドラッグするとドラッグした長さに応じたノートが入力されます。
  • ノートの選択:選択ツール(矢印のアイコン)を選択し、クリックまたはドラッグでノートを選択します。複数のノートをまとめて選択することも可能です。
  • ノートの移動:選択ツールで選択したノートをドラッグ&ドロップすることで、時間方向(横)や音の高さ方向(縦)に移動できます。
  • ノートのコピー:選択したノートを Ctrl + C (Windows) または Command + C (Mac) でコピーし、目的の位置にカーソルを置いて Ctrl + V (Windows) または Command + V (Mac) でペーストできます。または、Ctrl (Windows) または Option (Mac) キーを押しながらノートをドラッグ&ドロップすることでもコピーできます。
  • ノートの削除:削除したいノートを選択した状態で、Delete キーを押します。

これらの基本的な操作を組み合わせて、メロディーやリズムを入力していきます。

打ち込んだMIDIを鳴らす:バーチャルインストゥルメントの挿入

MIDIデータは演奏情報だけなので、そのままでは音は鳴りません。打ち込んだMIDIを音として聞くためには、「バーチャルインストゥルメント」(ソフトウェア音源)が必要です。REAPERでは、このバーチャルインストゥルメントをトラックの「FXチェイン」に挿入します。

FXチェインとは?

FXチェインは、そのトラックを通過する音声信号に対して、順番にエフェクトやバーチャルインストゥルメントを適用していく鎖(チェイン)のようなものです。トラックに複数のエフェクトをかけたい場合は、このFXチェインに順番に追加していきます。

バーチャルインストゥルメントの挿入方法

  1. バーチャルインストゥルメントを挿入したいトラックの、トラックコントロールパネル (TCP) にある FX ボタンをクリックします。または、メニューバーから Track > FX > Show track FX window を選択します。
  2. 「Track FX」ウィンドウが表示されます。このウィンドウがそのトラックのFXチェインを表しています。
  3. ウィンドウの左下にある Add ボタンをクリックします。
  4. 「Add FX to: (トラック名)」というウィンドウが表示され、REAPERが認識しているプラグイン(エフェクトやバーチャルインストゥルメント)のリストが表示されます。
  5. リストの中から使用したいバーチャルインストゥルメントを探して選択し(VSTiなどの種類で絞り込めます)、OK をクリックします。REAPER付属のシンプルなシンセ「ReaSynth」や、外部で入手したドラム音源などがここに表示されます。
  6. 選択したバーチャルインストゥルメントがFXチェインに追加され、その設定画面が表示されます。

これで、そのトラックのMIDIアイテムに含まれる演奏情報が、挿入したバーチャルインストゥルメントによって音として出力されるようになります。

まとめ

今回は、MIDIとは何か、そしてREAPERでMIDIデータを扱うための「MIDIアイテム」の作成方法と「MIDI Editor」の基本的な使い方、特にピアノロールビューでのノートの入力・編集方法について学びました。さらに、打ち込んだMIDIを音として鳴らすために、バーチャルインストゥルメントをトラックのFXチェインに挿入する方法も理解できたかと思います。

次回の第06回では、いよいよメタル系インスト曲制作に欠かせない「ドラム打ち込み」に挑戦します!REAPER付属のサンプラーなどを活用したドラムパートの作り方を解説します。

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