第06回:【反イデオロギー】組織の死角を突く裏ワザ ― 3つの「偽善イデオロギー」の打ち破り方

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きれいな言葉という甘い毒に酔う組織

理想的な組織運営として広く語られる全員一致や適切な権限委譲、つまり現場に決める権利を預けるという考え方は、一見すると極めて民主的で健全な姿勢に見えます。

しかし、激しい環境の変化にさらされる現実のビジネスの現場において、全員の合意や調和を優先する姿勢は、意思決定を果てしなく先送りさせる致命的な罠へと姿を変えます。

会議室で誰もがうなずき、誰も傷つかない結論だけが選ばれ続けるうちに、組織はいつの間にか身動きの取れない泥船へと変わっていくのです。

耳に心地よいマネジメント用語をそのまま真に受け、組織の調和を保とうと努力する真面目な人間ほど、決める権利を失い、身動きが取れなくなっていきます。

正しい姿勢を貫いているはずなのに、気づけば会議の隅で発言力を失っている。その乾いた孤独を味わった経験がある人も少なくないでしょう。

美しい理念やスローガンの裏側に潜む、権力を嫌う考え方のごまかしを見抜かなければ、あなたは組織の沈みこみと一緒にふるい落とされることになります。

美しいスローガンが決める力を奪い去る仕組み

どれほど優れた事業構想や変革案を携えていても、社内のあらゆる部門に配慮し、全員の納得を得ようと試みた瞬間に、その戦略は角が取れて当たり障りのない案へと落ちぶれます。

組織の中で立場を守りたい構成員たちは、自らの領域や取り分を守るために、最も危険の少ない現状維持の選択肢へと議論を導こうと試みます。

会議の場では、事業の中身そのものよりも、誰の顔も潰さずに済んだかという一点だけが、暗黙のうちに評価され続けるのです。

彼らは決して悪意を持って妨害しているのではなく、自らの保身と安定という理にかなった目的のために、合意形成や組織文化という言葉を盾として利用しているのです。

その盾は極めて頑丈であり、正論だけをぶつけても表面を滑り落ちていくばかりで、内側にある本音には決して届きません。

この偽善的な言葉の壁を破り、自らの構想を組織に形として残すためには、感情を排した乾いた権力エンジニアリング、すなわち権力を設計する技術者の視点が欠かせません。

その視点を身につけるためには、これまで美徳として祭り上げられてきた言葉の仮面を、一枚ずつ剥がしていく作業が避けられません。耳に心地よい理念の奥には、意思決定を静かに窒息させる3つの罠が、美徳の顔をして潜んでいるのです。

第一の罠:全員一致が決定を殺す、すり合わせ第一主義

第一の罠は、全員の合意をつくることが正義であると信じ込む、すり合わせ第一主義という心理的な壁です。

心理学の同調実験が示す通り、集団の中でただ一人だけ違う意見を口にすることには強い抵抗が伴い、多くの人間はその場の空気に合わせる道を無意識に選んでしまいます。

組織の成長が伸びきり、成熟期に入った企業においては、あらゆる決定において各部門の損得が激しくぶつかるため、全員が得をする合意など、仕組みの上であり得ません。

研究開発部門は技術の完成度を、営業部門は目先の数字を、管理部門は危険を取り除くことを、それぞれ最優先に据えており、そもそも見ている景色が違う者同士が心から一致する結論など存在し得ないのです。

全員の賛成を得ようとすり合わせを重ねるほど、尖った革新的な戦略は取り除かれ、誰の損得も傷つけない無難で筋の悪い選択肢だけが残ることになります。

電気自動車メーカーのテスラを率いるイーロン・マスクや、かつてゼネラル・エレクトリックの構造改革を進めた経営者たちが示した通り、これまで続いてきた組織の惰性を破る劇的な転換は、常に強い決定権を持った独裁的な決断によってのみ達成されます。

彼らもまた、押し切ることで一部の幹部たちからの信頼を一時的に失うという代価を引き受けており、自らの決定権という資産を賭けた、理にかなった選択を行っていたにすぎません。

組織を動かす真の決定とは、反対意見の渦巻く中で自らの意思を押し通す、権力を使うという手続きそのものであり、全員一致という幻想を捨てることからすべてが始まります。

第二の罠:強みを生かすという、現状維持の隠れ蓑

第二の罠は、ドラッカーらの経営論から都合よく持ち出される、自社の強みを生かすというかけ声をめぐるごまかしです。

強みを生かすというフレーズは、表向きは極めて前向きで理にかなった助言に見えますが、現実の組織においては、過去の成功体験や今ある設備・人員にしがみつくための、絶好の言い訳として働きます。

長年その強みを支えてきた工場や営業網、そしてそこに人生を懸けてきた社員たちにとって、強みという言葉を手放すことは自らの居場所を失うに等しく、彼らが抵抗するのはむしろ当然の自己防衛と言えます。

市場の前提が根本から変わっているにもかかわらず、自社の強みにこだわり続ける組織は、過去の資産を守りたい幹部たちの保身に、経営戦略を乗っ取られている状態と言えます。

かつて世界的な写真フィルムメーカーが、自社内で開発したデジタルカメラの技術を、今あるフィルム事業という強みを守るために長く冷たく扱い続けた事例は、よく知られています。

強みを守り抜こうとした判断そのものは、当時の稼ぎの仕組みを守るという点では理にかなっていましたが、結果として時代の変わり目に取り残されるという、致命的な代価を払うことになったのです。

真のリーダーが目指すべきは、過去の強みにしがみつくことではなく、権力を使って組織の仕組みそのものを、新しい環境に合うよう力づくで作り変える冷たい方向転換なのです。

第三の罠:権限委譲と組織文化を使った責任逃れ

第三の罠は、部下への権限委譲という名目による責任の丸投げと、組織文化という変えられないものへの逃げです。

現場に決める権利を預ければ自発性が生まれるという考え方は、一見すると理想的ですが、はっきりと決断を下せない経営陣が、自らの決定権と責任を投げ出すための隠れ蓑として悪用されることが多く起きます。

決断を下さないまま現場に判断を投げておけば、結果が悪くても自らが矢面に立たずに済むという計算が、その裏には静かに働いているのです。

また、都合の悪い意思決定の停滞を、昔からの組織文化のせいだとすり替える行為は、変化を拒む社内の役人たちが改革の芽を摘み取るための口実として利用されます。

彼らにとって組織文化という言葉は、自らの椅子と取り分を脅かす改革案を、議論の場に載せる前に葬り去るための、極めて便利な盾なのです。

パナソニックの改革において、トップ自らが長年手を触れられない領域とされてきた本社部門や中間組織から実際の権力を取り上げ、トップ直属の体制を作り直した事例は、うまく回らなくなった組織の仕組みを設計し直すことがいかに重要であるかを、はっきりと示しています。

長年その位置に安住してきた中間組織にとって、それは既に持っていた権利を奪われる痛みを伴う改革でしたが、組織全体が生き残るという観点からは、避けられない作り直しだったのです。

組織文化や歴史という、もう元に戻せないように見える壁に惑わされず、トップが直接、権力の仕組みを設計し束ねる権力エンジニアリングの実践こそが、止まった組織を再び動かす唯一の鍵となります。

偽善のきれいごとを突き崩す3つの具体的アクション

組織文化という壁にひるまず、トップ自らが権力の仕組みを直接設計し直す。この視点を手にした上で、では明日からの職場で具体的に何を変えるべきなのでしょうか。

ここで、止まった組織という盤面を自らの手で再び動かすための、3つの具体的アクションを示します。

第一に、会議の前にすべての部門への根回しやすり合わせを行って案を弱めるのをやめ、あらかじめ決めてある一つの実行案を、はっきりとした決定権限とともに示すことです。

決定後に生じる反発や摩擦は、あらかじめ権限を持つ者が引き受けるべき当然の代価であると割り切る覚悟も、同時に求められます。

第二に、強みを生かすという美しい名目に隠れた現状維持の主張に対しては、感情的に言い返すのではなく、過去の強みが将来の危険へと変わっているデータを示して、作り変えが避けられないことを突きつけることです。

数字という動かしがたい事実を突きつけられれば、保身のための美しい名目は次第に説得力を失っていきます。

第三に、権限委譲という言葉で責任をあいまいにすることをやめ、重要な要所の決定権と評価する権利を自らの手元に集め、直接まとめ上げる筋道をはっきりと作ることです。

これにより、誰の責任かがあいまいなまま意思決定が漂い続けるという事態そのものを、仕組みとして消し去ることができます。

力のない調和第一の姿勢を捨て、権力を仕組みとして設計する技術者へと振る舞いを切り替えてください。

乾いた権力の設計で構想をやり遂げよ

ここで明かした、権力を嫌う考え方の打ち破り方は、組織の調和を乱したり、他者の領域を脅かすための攻撃的なたくらみではありません。

それは、あなたが心から確信する真の構想や変革を、意味のない合意形成の泥沼の中で無駄に終わらせないための、冷たいが正当な統治の技術なのです。

耳に心地よいだけの理念に組織の未来を委ねてしまうことこそが、本当の意味での不誠実である。その逆説から導き出された結論でもあります。

全員一致を求めるから、決定が落ちぶれる。

強みにしがみつくから、時代に取り残される。

権限をあいまいにするから、組織の中身が失われる。

美しいきれいごとの言葉に酔い、決める力を失ったまま組織と一緒に落ちていく側に留まり続けるのでしょうか。それとも、偽善の壁を乾いた知性で突き崩し、揺るぎない権力の行使によって構想を現実に変える側に立つのでしょうか。

そう、組織に命を吹き込むのは、誰もが納得する優しい言葉ではなく、構造の力学を掌握し、冷たく決断を下した者だけなのです。

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