第05回:【リソース掌握】無から有を生むネットワーク戦術 ― ハブ(結節点)に君臨する情報非対称

目次

優秀な人が陥る「情報過疎」という命取りの失策

どれほど高度な専門スキルを持ち、デスクに向かって黙々と完璧な仕事を積み上げている人間であっても、組織の意思決定や重要なポストからあっけなく蚊帳の外へ追いやられていく光景があります。

真面目に現場を支える人ほど、「正しい仕事をしていれば自然と評価される」「余計な社内政治や他部署との付き合いに時間を使うのは無駄だ」という、ひとりで閉じこもる職人気質に逃げ込みがちです。

しかし、自分の専門分野だけに閉じこもり、組織の中を巡る生々しい情報や損得の流れから自らを切り離してしまう行為は、権力争いにおいて、自ら目隠しをして戦場に立つに等しい、命取りの失策です。

どれほど優れた腕を持っていようとも、情報が入ってこない「情報過疎」の状態に置かれた人間は、上の立場の人や他部署の都合に合わせて動かされるだけの、代わりの利く「便利な作業員」へと転落していくのです。

会議室の隅で交わされる雑談や、廊下ですれ違う一瞬の立ち話にこそ、次の人事や予算の行方を左右する大もとの情報が潜んでいます。机の上の仕事だけをひたすら磨き続ける者は、この生々しい情報のつながりの外側へと、静かに、しかし確実に追いやられていくのです。

権力とは、どれだけ持っているかではなく「通り道を押さえているか」である

自分が手にしている予算や役職、直接の部下の数といった、目に見える持ち物の多さこそが権力の源だという考え方は、権力を論じる立場から見れば、きわめて浅い誤解です。

組織の中で本当の影響力を持つ人たちは、自分が莫大な資産や決定権を直接持っているから強いのではありません。

彼らは、情報、噂、予算、承認といった組織の大事なものが他の人へ流れていく道の結び目、すなわちハブを独占しているからこそ強いのです。

自分の手元に使えるものが何ひとつなくとも、人と人の間、部門と部門の間に入り込み、情報の通り道を押さえることによって、何もないところから、間に立つ者としての絶大な権力、すなわち媒介権力を生み出すことができます。

組織の太い流れの上に自ら「検問所」を置き、通り抜ける情報の量と向きを操る者こそが、裏から盤面全体を動かす真の仕掛け人となるのです。

その検問所をどこに築くべきかは、組織という体の中で血の流れが滞り、途切れている場所を見極めて初めて分かります。何もないところから絶大な媒介権力を生み出すための仕組みには、静かに横たわる三つの真実があるのです。

第一の真実:構造的隙間(ストラクチュラル・ホール)に君臨するハブをつくる

一つ目の真実は、人と人のつながりにぽっかり空いた「構造的隙間」に自ら入り込み、唯一の橋渡し役、すなわちハブとして君臨するということです。

シカゴ大学の社会学者ロナルド・バートが解き明かし、ジェフリー・フェファーが権力の理論として応用した「構造的隙間」、つまり人と人のつながりにぽっかり空いたすき間をめぐる理論は、人のつながりの中心に立つことがいかに圧倒的に有利かを証明しています。

バートが大手電機メーカーの管理職を対象に行った調査では、部門をまたいで人のつながりの橋渡しをしていた人ほど、一つの部署に閉じこもっていた同僚と比べて人事評価が高く、昇進の速さも明らかに早いという結果が確認されています。

組織の中には、技術部門と営業部門、あるいは経営陣と現場といったように、互いに直接のやり取りも信頼関係も持たない「切り離されたグループ同士のすき間」が必ずあります。

この離れ離れの2つのグループの間に入り込み、両者をつなぐ唯一の橋渡し役、すなわちハブという立ち位置を手に入れることこそが、何もないところから強い影響力を生み出す第一の鍵となります。

フェファーが指摘する通り、人のつながりの中心に近づいた人間は、両方のグループから「相手の様子を知るために頼らざるを得ない、欠かせない存在」として扱われるようになります。

技術部門は営業部門が抱える顧客の事情を知らないことを恐れ、経営陣は現場の生の空気を知らないまま判断を下すことを恐れています。その両方の恐れのすき間に居座る者は、どちらの側からも軽々しく切り離せない相手として扱われるようになるのです。

自分は特別な専門知識も予算も持たずとも、切り離された情報を間に立って取り次ぐ権利を握るだけで、双方に対する強い交渉力と、欠かすことのできない存在価値を手にできるのです。

第二の真実:情報の流れに「検問所」を置き、取引の値打ちを独占せよ

二つ目の真実は、情報の流れそのものに「検問所」を置き、そこを通る取引の値打ちを独占するということです。

情報や知恵を手に入れたとき、それを良かれと思って組織の全員に一度にすべて公開してしまう行為は、間に立つ自分の値打ちをゼロにする、戦略の上での自殺行為です。

権力戦略の著述家ロバート・グリーンが指摘する通り、情報は誰にでもタダでばら撒くものではなく、誰が何を欲しがっているかを見極めた上で、自分を通してしか手に入らない「値打ちの高い商品」として管理しなければなりません。

手に入れた大もとの情報を自分の手元でいったん止め、誰に、どの順番で、どう形を変えて渡すかを冷たく操る「情報の検問所」を、自分の中につくり上げるのです。

スパイの世界では、一人の工作員に全体像を決して見せず、任務をこなすのに必要な断片だけを渡す「知る必要のある範囲に限る」という鉄則が徹底されています。全体を知る者だけが盤面を動かせるという情報の偏り、すなわち情報の非対称こそが、情報を差し出す側を支配し続けるための土台になるのです。

相手が喉から手が出るほど欲しがっている情報を、ちょうどよい時機に小出しに渡すことで、相手から感謝という見返り、つまり貸しを確実に作ることができます。

透明性や情報共有という聞こえのよい言葉に踊らされず、情報を通す「検問官」として振る舞うことこそが、組織の中での自分の値打ちを跳ね上げる手立てとなります。相手が全体像を欲しがれば欲しがるほど、その渇きこそが、あなたを手放せない存在に変えていくのです。

第三の真実:急所(サムスクリュー)を握り、抜け出せない依存をつくる

三つ目の真実は、相手の決定的な弱みや急所、いわゆるサムスクリューを握り、自分なしでは立ち行かないという、抜け出せない依存の形を完成させるということです。媒介権力を絶対的な支配力へと高めるための、最後の段階にあたります。

ロバート・グリーンは「相手が自分なしでは生きていけない状態を作り出せ」と述べています。相手が抱える仕事上の弱点、過去のミス、あるいは喉から手が出るほど欲しい重要人物とのつながりなど、相手の生き死にを左右する急所を、ひそかにつかんでおくのです。

アメリカ連邦捜査局を長年率いたある人物は、歴代の大統領や議員の私生活にまつわる秘密のファイルを手元にため込み続けたことで知られています。誰も彼を辞めさせられなかった理由は、彼の仕事の能力以上に、その急所をめぐる情報のつながりそのものにあったと、広く語り継がれています。

相手を完全にひとり立ちさせたり、自分の力で問題を解けるように導いたりするのは、二流の手にすぎません。

自分が間に立ち続け、その急所を補い続けなければ組織や仕事が崩れてしまう。そういう依存の形を、静かに根づかせることが重要です。

この片寄った依存の関係が完成したとき、かつてあなたを見下していた上司や敵対する勢力すらも、あなたを切り捨てられない状態に追い込まれ、あなたの思いのままに盤上を動く手駒へと変わります。

組織のリソースを支配する3つの具体的アクション

では、かつて見下していた相手すら手駒へと変えるこの依存の形を築いた上で、明日からの職場で具体的に何を実行すべきなのでしょうか。ここで、人のつながりの結び目を押さえ、何もないところから価値を生み出すための3つの具体的アクションを示します。

第一に、社内で互いにやり取りのない2つの部門やプロジェクトを見つけ出し、その間の「連絡窓口」や「調整担当」の役割を、手間を恐れず自ら進んで買って出ることです。地味な仕事に見えても、それこそが両者の情報を独占できる唯一の椅子になります。

第二に、社内で得た貴重な情報や人事の噂を、社内チャットや会議ですぐに共有するのを一切やめ、誰に、どの時機に伝えれば最大の政治的な見返りが生まれるかを計算した上で、相手ごとに個別に渡していくことです。

第三に、上司や重要人物が最も恐れているリスクや不都合という急所を冷たく読み解き、自分だけがそのリスクを裏で消し去れる「代わりのいない防波堤」として、自らをそこに置くことです。

情報や仕事の成果を無邪気に差し出すだけの受け身の立場を捨て、情報の通り道を押さえる「検問官」へと、自らの立ち位置を変えてください。地位や肩書きに頼らずとも、結び目を握る者が盤面を動かす側に回れるのです。

人のつながりの結び目を制し、何もないところから価値を生み出せ

ここで明かしたネットワークを支配する戦術は、情報を隠して社内を混乱させるための邪悪な妨害工作ではありません。それは、自前の予算も役職も持たない人間が、泥にまみれた組織の政治の中で確かな実力と影響力を打ち立て、自らの構想を実現するための、きわめて筋の通った下剋上の兵法なのです。

自分の領域だけに閉じこもるから、情報が入ってこなくなる。

情報を一度にすべて共有するから、自分の値打ちを失う。

相手を完全にひとり立ちさせるから、使い捨てにされる。

手元に目に見えるリソースが少ないことを理由に、無力な作業員として他人に使われ続ける側に留まるのでしょうか。それとも、情報の結び目を自ら押さえ、何もないところから絶大な媒介権力を生み出して組織を裏から動かす側に立つのでしょうか。

そう、組織を支配するのは、膨大なリソースを持っている者ではなく、リソースが流れる通り道に設けた「検問所」を静かに押さえた者なのです。

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